インバウンドが求める、日本の新たなディスティネーションはどこか?
インバウンドが求める、日本の新たなディスティネーションはどこか?
インバウンドサミット2023 ~チャンスを活かせ〜 @東京ミッドタウン八重洲
日本最大規模のインバウンド関係者向けイベントであるインバウンドサミットでは、日本中のインバウンドや観光に携わるメンバーが集まり、日本が持つ底力や可能性を探り、今後日本がとるべき方針について議論しています。
2023年のテーマは「チャンスを活かせ」。今回のインバウンドサミットを通して、業界、日本全体が大きな一歩を踏み出すきっかけを創り出します。
当セッションでは「インバウンドが求める、日本の新たなディスティネーションはどこか?」と題して、日本における観光地の位置づけや、インバウンド需要の取り込みを目指す戦略についてディスカッションしていただきました。
【登壇者】青柳 健司氏東武鉄道株式会社 執行役員 観光事業推進部長 東武鉄道、東武グループにおけるインバウンド誘客やグループ連携も手掛けている。CO2削減や再生可能エネルギー100%での運行など環境も配慮した鉄道の運行を実現。また沿線の観光づくりにも注力し、リッツ・カールトンホテルや金谷ホテルなど、中でも日光に特に力を入れている。
永原 聡子氏DENEB株式会社 代表取締役 Small Luxury Hotels of the World日本アンバサダー、宿泊施設活性化機構理事、外資系金融機関を経て、高級ホテルの企画・開発、サステナブル・ツーリズムのコンサルティング会社ラパズグループ日本法人アトリエラパズ設立後、海外富裕層向け旅行デザイン会社DENEBを創業。 自然・文化遺産に新たな角度から光を当て、唯一無二のストーリーのある旅を提供。国土交通省・観光庁委員、文部科学省・文化庁事業コーチを歴任。
原田 劉 静織氏株式会社ランドリーム 代表取締役 中国上海生まれ、1996年来日 青山学院大学卒業後、ソフトバンクBB株式会社・デル株式会社・トレンドマイクロ株式会社などのIT企業を中心にセールス、ビジネスデベロップメント、マーケティングなどのポジションを歴任。 2015年 インバウンドビジネスコンサルタントとして独立し、株式会社ランドリームを設立。2020年TOUCH GROUP株式会社を設立。 |
コロナ禍を経ても、変わらない日本への需要
原田:
本セッションでは、「インバウンドが求める、日本の新たなディスティネーションはどこか?」というテーマで、青柳さんと永原さんにお話を伺っていきたいと思います。新しいディスティネーションのマーケティングであっても、根本的なところに戻すと、誰に来てもらい、どこをターゲットにして、何を楽しんでもらうのか。この三つに尽きるのではないでしょうか。
まず誰というポイントを考えたときに、一旦富裕層で見てみますと、全世界の富裕層の分布というのは圧倒的にアメリカがトップで、中国が2番目、3番目がドイツ、4番目が日本という状況です。ただ成長率という意味ではマイナスが多い、要するに欧米も含めてこういったお金持ちが減っているというデータが出ています。実際に日本に来られている方はどうでしょうか?
永原:
本当に一握りしか日本のことを知らない方がほとんどなので、減るどころか本当に多くの方々がむしろ日本に注目をしています。私達も本当に方々から問い合わせを受けるのですが、それこそアメリカの有名な金融機関の、プライベートバンキングの中でも一番上のランクの方々を日本に案内したいというようなご相談をいただいたりもしますし、コロナ前後で減っているといった感覚は全くないですね。
青柳:
リッツ・カールトンへ宿泊される方の内訳としては、大きく分けてまずインバウンドの割合は今20%ぐらいです。昨年秋に渡航がオープンしたので、他の施設も同じ傾向だと思うんですけど、少しずつ上がってきている状況です。
元々リッツ・カールトンはマリオットとの関係があるのでアメリカが一番多いですが、もう一つはやっぱりアジア近隣諸国です。中国はなかなかまだ戻っていないですが、そこをターゲットにしているという話はセールスマネージャーからもよく聞いています。
滞在における宿泊先と体験の関係性
原田:
実際に日本でかなりのお金を使って楽しんでいただく方は、コロナの前と後でトレンドの違いはありますか?
永原:
お金をたくさん消費するお客様という意味では別に違いはないんですよね。元々移動もプライベートでされますし、体験も基本的には貸切など、かなりのプライバシーを担保して提供していくようなスタイルですので。ただ強いて言うならより自然の中など、体験のクオリティに関して貪欲になっている印象でしょうか。
原田:
それは体験と宿泊のどちらが先なんですか?
永原:
魅力的な地域ってたくさんあるので体験と言いたいのですが、宿泊が先行している部分は大きいです。先日うちのお客様がリッツ・カールトンに4泊させていただいて大変満足されたのですが、そのときも「リッツ・カールトンがあるから日光に行く」という選び方でした。
一方である東北のディスティネーションをご案内した際に、宿が要因で翌日場所を変更したというような経緯もありまして、宿は本当に大きいと感じています。
青柳:
現在は富裕層に選ばれるような価格帯のホテルっていうのが日光地区ではリッツ・カールトンだけなので、やっぱり世界から注目を集めるためにはあと2、3軒ぐらいそういったホテルが必要ですね。このハイグレードの層に行けば行くほど圧倒的にホテルが不足しているのではないのかというのは実感として感じています。
ただ東武グループだけがここを増やしていくには限界もあるので、他のデベロッパーさんにも日光にぜひ進出してきていただきたいというのは思っています。国際的な流通と言いますか、新たにブランドが出てくるとガラッと変わるのではないかと思います。
今後の日光のさらなる価値とは
原田:
確かに新たなディスティネーションになるために宿泊は大事ですよね。そういった意味では東武さんが今日光でやられていることはとても先取りで素晴らしいと思います。
それに対してやはり体験と価値に加えるというところで、今後の日光のポジションやコンテンツはどのように考えていらっしゃいますか?
青柳:
多くの外国人の方が日光でイメージするのは二社一寺で、日帰りの方が多いのが現状です。これから日光を観光地としてもっと盛り上げていくためには、せっかくリッツ・カールトンもできたので、もっと奥日光のいわゆる中禅寺湖畔の方にも来ていただきたいと思っています。
中禅寺湖畔は日本の明治〜昭和初期に大使館の別荘が多くあり、当時外交官がこぞって日光を訪れていました。その景観はよくイギリスの湖水地方と比較されることがあり、その歴史感や魅力を再興できないかなと考えています。
まだまだ情報として日本の方にも海外の方にも魅力を発信しきれていないので、自然という魅力ももっと外国人の方には知っていただきたいですし、8割がインバウンドで2割が日本人というような将来像を描きたいです。
永原:
今回お客様に日光をご案内した際は、東京から2時間程度で行けて、国立公園も自然体験も文化体験もあって、お寺も神社もある。かつリッツ・カールトンがあって受け入れ態勢もちゃんとできているということで、総合的なことをお伝えした上でお客様が選択されました。
実はそこまで深いお話をしなくても、この総合的な要素を兼ね備えているディスティネーションがそもそもあまりないので、実は非常にシンプルなことだったりするんですよね。
大切なのは、増やすのではなく今あるものを磨くこと
永原:
ただ4泊きちんと滞在し、かつそれを周りにも伝えてくれるようにするには滞在中の体験はすごく大切です。
このお客様は数珠作りの体験に非常に感動されたそうです。亡くなった奥様からいただいたブレスレットを数珠に作り変えたいという希望に対し、いつもより長く祈祷をしてくれた住職に、事情を察しリクエストを汲んでアテンドをしてくれたリッツ・カールトンのスタッフに、アクティビティを通して非常に感動し、一生に残る思い出になったと大変喜んでくださいました。
実はアクティビティを増やすよりも、一つずつきちんとお客様に向かって関心を持ち、より良い体験をどうやって提供していくことができるかという、「人を磨く」「体験を磨く」ことに時間をかけると勝手にホテルの口コミは広がっていくのです。
実は小さな一歩がすごく大きなところに繋がっていくので、地域としても中禅寺湖の魅力も広がり、デベロッパーさんにとっての逆に作りたいエリアになるので、一度成功したら磁石のように引っ張られるのではないかと思います。
原田:
そうですよね。またアテンドしている方々にとっても、いかに自分たちのリソースを減らせるか、簡単に手配ができるかということも本当にキーになるでしょうね。
永原:
やっぱり一番大事なのは「人」なんです。
いかに人が集まるような場所にしていくのか、Uターン者、Iターン者を増やしていくのかといった地域全体での取り組みがあってこそのディスティネーションだと思うので、ハコだけではいけないし、ハコもあってのヒトというのが大事かなと思います。
青柳:
非常に参考になります。今永原さんがおっしゃったような「人を磨く」という部分では、こちらが何気なく普通にやっていることでも、インバウンドや外国人の方に対してすごく温かいおもてなしができる街というようなイメージになれば、日光のブランドとしてもより広がっていくでしょうね。
現在も東武グループでは日光エリアへのアクセス改善として新型特急スペーシアXの導入やリッツ・カールトン日光や金谷ホテルの改装など、宿泊施設の充実化などを図っていますが、今後も多方面で日光の知名度を上げて、皆さんにさらに魅力をお伝えできたらと思います。