中国市場・富裕層向けインバウンド戦略の今後のトレンドとは?

中国市場・富裕層向けインバウンド戦略の今後のトレンドとは?

コロナ禍以降、海外観光客も増加傾向となり、今後のインバウンド戦略について大きな市場である中国のインバウンドは戻るのか戻らないのかを考える企業も多くなっています。やっと中国の団体旅行も再開しましたが、これまでと同じインバウンド戦略でいいのか、また新たな戦略が必要なのか、今後のトレンドを知る上で、中国市場に詳しい立場からTOUCH GROUP株式会社 代表の原田静織が解説させていただきます。インバウンドマーケティングの今後の戦略、中国へのインバウンド戦略を参考にしてみませんか。

解説者プロフィール

原田静織

中国上海生まれ 1996年来日
IT企業を中心にビジネスビジネスデベロップメント&マーケティングのポジションを歴任、2013年9月、トリップアドバイザー株式会社 代表取締役 就任
2015年7月、インバウドビジネスコサルタントとして独立、株式会社ランドリームを設立
2020年7月、マーケティングの会社TOUCH GROUP株式会社設立、代表取締役就任

 

中国上海生まれで10年近くインバウンド戦略を語ってきた立場から

私自身は中国上海生まれで、IT 企業を中心にビジネスデベロップメント&マーケティングをこれまで長年行ってきました。10年弱日本のインバウンド、観光戦略について観光庁や自治体に対し提言を行ってきました。現在は「ランドリーム」「TOUCH TV」「TOUCH」の3つの事業を行っています。

「ランドリーム」では、コンサル事業を中心に、インバウンドと地方創生のための戦略コンサルティング及び、マーケティング・プロモーションデザインなどを行っています。

「TOUCH TV」では、インフルエンサーを抱え、マルチチャンネルネットワーク(MCN)事業を行い、日本・アジア各国の KOL(キーオピニオンリーダー)の発掘・ 育成・マネジメントを行い、中国市場への進出サポートを行っていま「TOUCH」では、アジア富裕層メディア事業として、グルメ・ショッピング・不動産・アート・ EC ・企業視察などの観光資源を提供し、予約代行やオーダーメイドツアーなどを行っています。そのため、インバウンドマーケティング戦略について問われることも多くなっています。

インバウンドマーケティングの戦略作りから行うことが大切

よくマーケティングとプロモーションを混同して聞かれることが多いのですが、インバウンドマーケティングを行う際は戦略作りからスタートして欲しいと思っています。戦略作りでは、ExternalマーケティングとInternalマーケティングの2種類があります。Externalマーケティングでは外部に向けてブランディングをし、顧客満足度を上げるマーケティングや広告、Internalマーケティングでは会社内のビジョンなどを考えるものです。

ExternalマーケティングとInternalマーケティングの関係性では、Internalマーケティングで社内の目標目的を共有してから、会社全体としてのExternalマーケティングを行うのが一般的です。しかし、実際には会社としてのインバウンドマーケティング戦略の目標がはっきりしていないことが多く、「うちの会社はインバウンドマーケティングに向いているのかどうか」や「インバウンド戦略で成功と言えるものを共有化すること」からそれぞれ行う必要があります。そのためにもまず様々な施策(HOW)を行う前に、WHOとWHATを整理してインバウンド戦略を作ることが重要ですので、それぞれについて見ていきたいと思います。

「WHO」:インバウンドの戦略作りで大切な具体的なターゲット設定

インバウンドマーケティングの戦略作りをする際に、よく「欧米+アジア」などをインバウンドのターゲットにしていることが多いのですが、もっと具体的なインバウンドのターゲット設定が必要と言えます。インバウンドのターゲットを考える一つとして、飛行機料金の資料を紹介しますが、コロナ禍で一度下がった飛行機料金が、コロナピーク時の2022年には48.5%と高くなりました。そして、2023年には8.45%増加しています。日本の場合はもう少し高い傾向で、ホテル代も上がっています。全体的に旅行単価が上がっていて、インバウンドで旅行に出かける人は富裕層と言えます。

そして、世界の富裕層が多い地域はというと、ノースアメリカのアメリカやカナダで、次は中国、ヨーロッパなどです。2022年コロナの影響で富裕層は減少傾向で、アメリカは約10%減少し、唯一中国だけは富裕層が減少していません。そういった意味でインバウンド戦略は、より中国の富裕層に目を向けないといけない時代です。

中国の富裕層は20代~30代に集中していて、上海・北京・深センという沿岸都市では日本のビザや旅行に多くの興味・関心を持っています。

「WHAT」:富裕層で起こっている6つの最新旅行トレンド

富裕層にどういう旅行が人気なのかですが、ブッキング・ドットコム調べの2023年の旅行トレンドは6つです。

まず、1つ目は、自然の中でシンプルかつミニマムな 「オフ ・ザ・グリッド旅」がトレンドです。非日常を味わう自然、サバイバルスキルを学ぶ機会など、無人島生活などが流行っています。

2つ目にカルチャーショックを経験できる異文化な旅がトレンドで、人気の場所へ行く旅行から、注目されていない穴場スポットに行くことが人気になってきています。

3つ目は、古き良きものを求めるノスタルジックな旅を求める傾向にあります。

4つ目は、チームビルディングを目的とした社員旅行がコロナの間でトレンドになり、小グループの3世代のファミリー旅行もトレンドです。

5つ目は、節約した贅沢な旅で、コストパフォーマンスに優れた旅が好まれています。

6つ目は、バーチャル旅です。情報収集の、AppleのVRゴーグルの発売もあり、バーチャル旅を見て、より厳選して行きたい所を見つけることがトレンドです。

世界での旅行トレンドは、大きく変化していると言えます。

中国の爆買いが戻るという考えは危険!変化する中国市場

次に中国において、日本への旅行関連で検索されるキーワードで、常に上位のもの、需要の高いものとしては、ラーメン、寿司、焼肉、鰻、蟹がありますが、2018 年~2019 年にかけて検索が増えているのがすき焼き、お好み焼き、回転寿司、焼き鳥、天ぷらなどです。

「マツモトキヨシ」や「三宅一生」などのブランド名の検索、ストリート系、フィギュア、おもちゃ、文房具などの検索も増加。着物体験や美術館や美容室、ネイル、マッサージなどに関するワードも増え、「旅行の間に髪を切ってほしい」というニーズもあるようです。

「インバウンドで中国の爆買いがまた戻るのか、戻らないのか」という質問をよく受けますが、私はこれに対して警鐘を鳴らしたいと思います。「インバウンドで中国の炊飯器やドラッグストア、コスメなどの爆買いは戻らない、減る」と思っています。コロナの3年間で中国の国内ブランドが成長しているからです。メイドインチャイナである高価格帯の商品も中国ブランドオンライン市場の中で大きく割合を占めるようになってきています。

日本商品やメーカーに関するキーワード検索数が下がってきているという事象もここ数年で見られてきています。中国のインバウンドでの爆買いがそのまま戻るという考えは危険で、戻らない場合のインバウンド戦略をしっかり立て直す必要があります。

中国では若い富裕層のウインタースポーツが成長し続けている

中国のインバウンドを考える際に、ウインタースポーツマーケットがインバウンドとして成長し続けていることをお伝えしたいと思います。

北海道のニセコは既にインバウンドで人気ですが、他のいろいろな場所にもウインタースポーツのインバウンドのチャンスがあります。2022年の時点で中国では3.05億人がウインタースポーツを楽しんでいて、27~39歳が58%を占めています。中国ではスキーとフィギュアスケートが好まれているため、インバウンド戦略をもっと考えていくと良いと思います。

中国でインバウンドだけでなく越境ECが増えている理由

また、インバウンドだけでなく中国での越境ECが増えていて、今後も増えていくと思われます。

「ロレアル」という化粧品ブランドは中国市場が60%以上を占め、2020年以降も中国市場(Tmall国際:中国最大のECモール)への海外ブランド進出が増加。越境ECに対して、日本以外でも海外の多くが注目しています。

中国で越境ECの利用をする際に最も重視しているのは「本物保証で、偽物は売っていないので安心して買える」というものです。日本製品はこの点で優位と言えます。次に、「サイト・アプリの認知度と口コミ」が続きます。マーケティング戦略が次第で勝ち組になるか負け組になる大きく変わってくると言えるでしょう。

「HOW」:携帯を中心にSNS活用のマーケティング戦略がメインに

そして、どのようにインバウンドマーケティングをするのかですが、デジタルマーケティングのノウハウがインバウンドでも大事な時代です。今、全世界でモバイル、携帯でのインターネットの使用が92.1%を占め、ホームページでもモバイル対応が必要な時代です。パソコンを使って買い物をするユーザーがほとんどいませんので、携帯、モバイル対応に目を向けていかなければなりません。

情報収集のスタイルがYahoo!やGoogleなどのポータルサイトで検索して調べるスタイルから変化し、若い世代の多くがSNSのInstagramやYouTube、Tik Tokなどで検索をして調べています。日本のSNS利用者も2024年末には8,000万人以上になると言われています。世界のSNS利用者との比較は以下の通りです。

また、中国へのインバウンドマーケティングでSNSを使う場合ですが、日本とは別のSNSがあり、「Weibo」は、日本のTwitterやFacebook代わりになっています。また、ショート動画アプリでは日本のTikTokとは別ものの「TikTok中国 (抖音)」やYouTubeに代わる動画共有サイト「ビリビリ」、Instagramとアマゾンが合体したようなECアプリ「小紅书(RED)」などがあります。

中国でインバウンドや越境ECを行う際には、これらのプラットフォームを意識して行うのが良い方法です。

動画を使うインバウンド戦略が大事

また、インバウンド戦略ではSNSを使うだけでなく、観光客PRに動画を使うことが大事な時代です。InstagramのリールやTikTok動画は短期間で多くの情報を伝達できるのが特徴で、目にとまり記憶に残ります。幅広い層に拡散でき、SEOの評価も向上するため大きな拡散能力があります。

その中でもTikTokは10代は60%以上、20代は40%以上、30代でも20%以上の方が利用しています。若年層にアプローチするには相性がいいです。3年間で利用者が5倍以上に成長しています。TikTokを新卒採用に活用する会社も増えています。

またTikTokは利用者と旅行の親和性が高く、旅行への関心の高い内容も多く配信されています。絶景や旅行の攻略や美味しいものを探す時にもよく使われていて、私もTik Tokで旅行の面白いスポットを探しています。

中国でのマーケティングを考える際に、中国企業ではホームページを作っていないことが多く、SNSを多く活用しています。TikTokの企業アカウント数は2020年10月で500万を超え、2018年の50倍に達しています。「ビリビリ」を活用する企業は2020年で前年比20%以上に増加しています。インバウンドマーケティング、越境ECを行うためにブランディングする際には中国のSNS、特に動画を使うことが当たり前となっている時代です。

また、海外で日本のSNSをそのままやっても大丈夫かと悩む企業様がいらっしゃいますが、コンプライアンス支援を受けることが大事です。例えば私の過去の経験でいうと、イスラム教徒を信仰する国においてある会社がマーケティング用に豚のアイコンを作り、デリカシーがないと大炎上したことがありました。中国においては政治的な発言がよりシビアにとらえられるため、当社のようなコンプライアンス支援も行っているプロに頼むのが正解と言えます。

インバウンドマーケティングでは戦略を考えて戦術を考えることが大事

コロナ禍以降のインバンドマーケティングの戦略について話をしましたが、いきなりプロモーションを始めるのではなく、インバウンドの戦略をまず考えてから戦術を考えることが大事です。HOW(施策)の前に、インバウンドのターゲットのWHOとWHATを考え、何を売っていくのか、どうやって売っていくのか、戦略を考えることが必要です。

一つ仮説を立てるのであれば、今後の中国のインバウンドマーケティングでは、WHOでいうとY世代、Z世代の観光客に目を向けた方がよいと思います。WHATに関しては、ハイブランド・化粧品ではなく、ミシュラン・トレンディ商品(フィギュア)・トレンディファッションの方が差別化できると思います。HOWという点ではこれまではショッピングと観光が中心でしたが、日本文化・アートなどの体験を盛り込む中国のインバウンド戦略が有効といえます。

コロナ前後で劇的に変わり、ターゲットや行動様式も変わっています。「インバウンドはコロナ前にうまくいっていたから大丈夫」「コロナの前に戻る」という戦略ではなく、私は「もう一度戦略から考え直し、マーケティングにつないでもらう方が良い」と中国へのインバウンド戦略を提言したいと思います。